人工知能の拡大を支える巨大施設、その代償は
人工知能(人間のように学習や判断を行うコンピューター技術)の利用が広がるにつれ、その計算を担う人工知能データセンターの建設が各地で進んでいます。データセンターは、膨大な情報を保管し、処理するためのコンピューター設備を集めた施設です。人工知能の学習や利用者への回答には大量の計算が必要なため、一般的なデータセンターよりも大きな電力を必要とします。
韓国では地方選挙の候補者が、地域に人工知能産業を呼び込む策としてデータセンター誘致を掲げてきました。しかし、施設ができれば地域経済が大きく潤うとは限りません。建設には多額の資金が投じられる一方、施設の運営に必要な人員は、工場のように大勢の雇用を生むとは限らないからです。
人工知能データセンターは、産業の成長を支える基盤であると同時に、電力や水を大量に使う施設でもあります。地域に誘致する際は、期待される経済効果と住民が負う負担の両方を見極める必要があります。
従来型の五〜十倍の電力が必要になる可能性
業界関係者の推計では、人工知能データセンターが使う電力は、従来型のデータセンターの五〜十倍程度に達する可能性があります。人工知能の開発では、文章や画像など多様なデータを集め、学習させ、利用者の質問に応じて処理し続けます。利用者が増えれば、その分だけ計算設備を動かす時間や規模も大きくなり、電力需要が膨らみます。
電力を確保するだけでなく、停電や設備の故障に備えた仕組みも欠かせません。人工知能のサービスが止まれば、企業の業務や行政サービス、日常的に使われるアプリなどに影響が広がるおそれがあります。たとえば、二〇二二年に韓国の板橋にあるデータセンターで火災が起きた際には、カカオトークを含む複数のサービスが停止し、社会に大きな混乱をもたらしました。
データセンターは通常の電源が途絶えた場合に備え、蓄電システム(電気をため、必要なときに供給する設備)や非常用電源も用意します。こうした備えはサービスの継続に役立つ一方、施設全体の電力需要をさらに押し上げる要因にもなります。電気を使う量が増えれば、発電に伴う温室効果ガスの排出が増える可能性もあり、環境への影響を無視できません。
企業や政府の利用拡大も需要を押し上げる
企業や政府機関では、自社で人工知能を開発するだけでなく、外部企業が提供するサービスも併用する「ハイブリッド型」の利用が広がっています。たとえば、社内情報を扱う業務には独自の仕組みを使い、一般的な文章作成には外部の人工知能を使う、といった方法です。用途が増え、複数の仕組みを同時に動かすほど、必要なデータ処理と電力も増えていきます。
韓国では、人工知能の拡大に加えて半導体の生産や研究開発に必要な電力も増えると見込まれています。人工知能向けの半導体をつくる工場や、その製造技術を研究する施設も電力を必要とするためです。社会全体で使える電力には限りがあり、産業間で安定した供給をどう確保するかが重要な課題になります。
電気だけではない、水と冷却の問題
人工知能向けの計算設備は発熱量が大きく、安定して動かすには熱を取り除かなければなりません。従来は空気を使って冷やす方法が中心でしたが、発熱の大きい設備では、水を循環させて冷却する方式が広がっています。こうした水冷方式は冷却の効率を高める可能性がある一方、施設の規模や運用方法によっては多くの水資源を必要とします。
水を川や海から取り込む場合には、周辺の生態系への影響や、取水・再利用にかかるエネルギーも検討しなければなりません。水を使えば問題が解決するという単純な話ではなく、冷却に必要な水の量や排出される熱を含め、地域の環境にどのような影響が及ぶかを確認する必要があります。電力の確保と水の利用は、別々ではなく一体の課題です。
さらに、データセンターの建設は地域に大きな設備を持ち込む一方、雇用や税収などの利益が住民にどれほど届くかは、計画ごとに異なります。施設の誘致を「新しい産業が来る」という期待だけで判断すれば、電力網や水資源への負担との釣り合いを見失うおそれがあります。地域が計画の内容を把握し、利益と負担を比較できる情報公開も欠かせません。
人工知能で、電力網をより賢く運用する
人工知能は電力を大量に消費する一方、電力の無駄を減らすための道具にもなり得ます。太陽光や風力など再生可能エネルギーは、天候や時間帯によって発電量が変わります。需要や発電量の変化を予測し、電力をどこに、いつ、どれだけ送るかを調整する作業に人工知能を使えば、電力網をより効率よく運用できる可能性があります。
韓国電力公社の電力研究院では、再生可能エネルギーや分散型電源(大規模発電所だけに頼らず、地域などに分けて置く発電設備)が増え、複雑になる電力網を管理する技術の開発が進められています。同研究院の人工知能研究所を率いるパク・ギジュン氏は、韓国エネルギー工科大学との協力を通じ、電力分野でデータに基づく判断を行う基盤づくりを進めていると説明しています。記事では、二〇三〇年までに百ギガワット規模へ拡大する再生可能エネルギーを安定して運用するため、こうした技術の活用が期待されています。
人工知能を電力の需要予測や供給調整に使えば、発電量の変動に対応しやすくなる可能性があります。ただし、管理技術の改善だけで、データセンターそのものが使う電力をなくせるわけではありません。
電力の変換ロスを減らす技術
電力インフラ企業のLSエレクトリックは二〇二六年七月、ドイツの半導体企業インフィニオン・テクノロジーズと、人工知能データセンターなどに向けた直流電力の技術を共同開発すると発表しました。直流(電気が一定の向きに流れる方式)は、交流(電気の向きが周期的に変わる方式)と並ぶ電力の供給方法です。施設内で電力を何度も変換すると、その過程で一部が熱などとして失われるため、変換の段階を減らすことが省エネにつながる可能性があります。
電力設備の設計や運用を改善する作業にも、人工知能を取り入れる動きがあります。人工知能の普及によって増える電力需要に対し、人工知能を使って設備の運転を最適化し、無駄な消費を抑えようとする取り組みです。ただし、技術を導入しただけで効果が自動的に得られるわけではなく、設備の更新や運用方法の見直しも必要になります。
捨てていた熱を地域で生かせるか
データセンターの設備が生む熱は、冷却の負担になる一方、再利用できるエネルギーでもあります。韓国機械研究院が二〇二六年六月にまとめた報告書では、ヒートポンプ(熱を移動させ、暖房などに使える温度に整える装置)を使い、データセンターの廃熱を地域暖房や産業団地の熱需要に生かす方法が検討されています。
たとえば、施設から出る熱を近隣の建物の暖房に利用できれば、捨てる熱を減らし、別の熱源を使う量も抑えられる可能性があります。ただし、熱を運ぶ配管や制御設備が必要で、データセンターと利用先が近いことも重要です。地域の需要に合わせて熱を蓄えたり配ったりする仕組みを整えることが、実用化の条件になります。
建設業界でも、データセンターを専門に扱う部門を設け、高効率で環境負荷の小さい設計を取り入れようとする動きが出ています。電力の使い方や冷却の方法を建物の設計段階から検討すれば、完成後に設備を追加する場合より効率を高められる可能性があります。一方で、技術の標準化や具体的な運用方法には、なお検討の余地があります。
化石燃料への依存と、海を生かす選択肢
安定した電力をすぐに確保するため、データセンターでディーゼル発電機への依存が高まる動きも懸念されています。非常時の予備電源として使う設備であっても、利用が増えれば化石燃料の消費と温室効果ガスの排出につながります。再生可能エネルギーを重視するという業界の目標と、需要の急増に対応する現実との間には、なお隔たりがあります。
将来の選択肢としては、水素燃料電池などの次世代技術も挙げられています。海水を使った冷却や、波の力を利用した発電をめぐって、関連技術を持つ企業に投資する企業もあります。ただし、こうした方法が大規模なデータセンターでどれだけ実用化できるかは、技術の成熟度や費用、周辺環境への影響を踏まえて見極める必要があります。
地域との合意が、人工知能の普及を左右する
人工知能データセンターは、人工知能サービスを支えるために必要な施設になりつつあります。しかし、建設予定地では、電力や水を多く使う一方で地域の雇用が限られるのではないかという不安から、歓迎されない場合もあります。施設の誘致をめぐる対立が続けば、事業の遅れだけでなく、地域住民と企業の間に長期的な不信を残しかねません。
今後は、電力の安定供給、再生可能エネルギーの利用、水資源の保全、廃熱の活用、地域への経済的な還元をまとめて考える必要があります。企業には、施設が使う電力や水の量、非常用電源の運用、環境対策をわかりやすく示すことが求められます。行政や地域も、建設の賛否だけでなく、負担を減らし利益を共有する具体策を議論することが重要です。
人工知能による電力需要の増加を、人工知能や省エネ技術だけで解決することはできません。施設の効率化と電源の脱炭素化、地域との合意形成を同時に進められるかが、人工知能データセンターを社会に根付かせる鍵になります。



















