国民権益委員会の保護措置、裁判所も停止を認めず
韓国のシンハン大学で、大学の教員採用に不正があったと通報した教授への懲戒をめぐり、大学側の対応が問われています。国民権益委員会(公益通報者の保護などを担う韓国の行政機関)は7月、大学に対し、この教授への懲戒手続きを中止するよう求めました。
大学はこの決定を不服として8月に取り消しを求める訴訟を起こし、判決が確定するまで決定の効力を止めるよう、執行停止も申し立てました。執行停止とは、裁判の結論が出る前に行政機関の決定を一時的に効かなくする措置です。
ソウル行政裁判所は9月15日、大学の申し立てを退けました。大学に回復困難な損害が生じる、あるいは決定の効力を急いで止める必要があるとは認められないと判断しています。
ただし、この判断は国民権益委員会の決定をめぐる訴訟の最終判決ではありません。裁判所が退けたのは、判決が出るまで決定を一時停止してほしいという大学側の申し立てです。
教員採用をめぐる疑惑を通報
通報したのは、京畿道議政府市にあるシンハン大学の舞台芸術学科に所属するA教授です。A教授は2025年2月、学科長として教員採用の審査に加わりました。この採用には、大学総長の秘書チーム長が応募していたとされています。
A教授は、大学がその応募者に合わせて応募資格を変更し、総長と教務担当の幹部が高い評価を付けるよう指示したと主張しました。応募者はその後、教授として採用されましたが、最初の学期から授業運営が不十分だとの批判が出たといいます。
A教授は同年4月に大学へ採用手続きや授業の問題を伝えましたが、改善が見られなかったとして、6月3日に国民権益委員会と教育当局へ通報しました。警察は現在、この採用不正疑惑を捜査しています。一方、大学側は、A教授が自分の希望する人物を採用できなかったために問題を提起したのだと反論しています。
最初の懲戒は手続き上の問題で取り消し
大学は学生からの苦情を調査し、A教授による暴言や私的な仕事の強要などが確認されたとして、通報から約4カ月後の2025年10月10日に教授を懲戒免職にしました。懲戒免職とは、重大な問題があったとして職を失わせる処分です。
しかし、教員人事に関する不服申し立てを審査する教員訴請審査委員会は、2026年1月、この処分を取り消しました。懲戒委員会の男女構成が規定に合っていなかったためです。大学はその後、同じ理由による処分を改めて進めようとしました。
国民権益委員会は、通報を理由に不利益を受けた可能性があると判断しました。指導方法に行き過ぎた点が一部あったことは認める一方、懲戒理由の一部には証拠が不十分であり、事前の警告もなく前例のない懲戒免職に至ったのは重すぎると評価しました。
委員会が認めたこと、認めなかったこと
- 通報後に懲戒を進めたことについて、公益通報への不当な不利益に当たる可能性があると判断しました。
- 学生からの苦情を受けて大学が調査したこと自体は、不当だとはしませんでした。
- 一部の業務を担当させなかった措置についても、それだけで不当な扱いとは認定していません。
1年以上授業を担当できず、新たな処分へ
A教授は2025年5月から1年以上、授業を担当できていないとされています。大学は2026年9月22日、過去の研究費の受け取りなどに問題があるとして、A教授に再び職位解除を通知しました。職位解除は、教授の身分を保ったまま、職務から外す措置です。
大学は、研究費の不正受領や公演支援金の流用疑惑を理由にA教授を警察に告訴し、10月6日にこの問題を審議する新たな懲戒委員会を開く方針を示しました。これらは現時点で大学側が示している疑惑であり、不正が確定したことを意味するものではありません。
A教授は、問題となった金銭は実際に公演を行った対価として受け取ったもので、その後、学科運営のために寄付したと説明しています。大学側は報復の意図を否定し、学生を守るためには教授と学生を分ける必要があると主張しています。大学関係者は、教授の権利だけでなく学生の権利も考慮すべきだとの考えを示しました。
内部通報を守る制度の実効性が焦点に
全国私立大学民主化教授労働組合は10月1日、国民権益委員会と裁判所の判断後も懲戒を続けるのは報復に当たると主張し、10月6日の懲戒委員会を開かないよう求めました。組合は、不正を知らせた人を保護する制度の趣旨に反すると訴えています。
A教授も、保護措置が出され、大学の執行停止申請も認められなかったのに、大学が別の問題を持ち出していると批判しました。公益通報は組織内の問題を改善するためのものなのに、通報者が授業を外され、不利益な扱いを受けるなら、誰も内部の問題を知らせなくなるのではないかと述べています。
この件では、大学が学生の訴えを調査し、必要な安全配慮を行うことと、公益通報者を報復から守ることの両立が問われています。新たな疑惑が処分の正当な根拠となるかどうかは、証拠と手続きに基づいて判断される必要があります。
今後の注目点
- 国民権益委員会の決定を取り消すよう求めた大学側の訴訟が、どのような結論になるか。
- 10月6日に予定される懲戒委員会が開かれるのか、また審議でどのような証拠が示されるのか。
- 採用不正疑惑と研究費などをめぐる疑惑について、警察の捜査や大学の調査がどのように進むのか。
公益通報者の保護は、通報内容が最終的に事実と認定されるかどうかだけでなく、通報後に不利益な扱いを受けない仕組みを確保できるかにも関わります。大学の教育現場で学生の権利を守ることと、教職員が問題を安心して申告できる環境を整えることの両方が、今後の判断の焦点となりそうです。




















