映画の名場面を思わせる廃棄方法

米国のヒューマノイドロボット開発企業、フィギュアAIが、旧型ロボットを溶鉱炉に投入して廃棄する様子を動画で公開しました。映像では、ロボットが自ら炉へ向かい、金属が溶けた電気炉へ飛び込むように見えます。

この光景は、1991年公開の映画『ターミネーター2』の結末を連想させます。アーノルド・シュワルツェネッガー演じるT-800が、自分の技術が悪用されないよう、溶けた金属の中へ身を沈める場面です。今回の出来事は映画の演出ではなく、実際のロボットを使った廃棄作業でした。

映像の印象とは異なり、ロボットが自分の意思で「最期」を選んだわけではありません。企業が用意した訓練と手順に基づいて、炉へ向かう動作を実行したものです。

世代交代で旧型「F.02」を廃棄

廃棄されたのは、フィギュアAIのヒューマノイドロボット「F.02」です。同社は後継機にあたる「F.03」と「F.04」を開発したことから、旧型モデルの生産を終えることにしました。

F.02は身長約170センチのロボットで、2024年8月に公開されました。同社によれば、家庭や物流の作業を想定した初期モデルの一つで、米サウスカロライナ州スパータンバーグにあるBMWの工場にも配置され、溶接工程で使う板金部品を所定の位置に差し込む作業を担っていました。

ロボットを通常の方法で解体するには、機体を分解し、部品や素材を分類する必要があります。手間と時間がかかるうえ、内部の構造や独自技術が外部に知られる可能性もあるため、同社は別の廃棄方法を検討しました。

  • 更新の理由:新しいモデルの開発にともない、旧型機を運用し続ける必要が薄れた。
  • 解体時の懸念:分解作業には人手と時間がかかり、内部構造が見られる可能性がある。
  • 選ばれた方法:機体を高温で溶かし、形や部品を残さず処理する。

発案したのはシュワルツェネッガー

同社がロボットの解体方法についてアイデアを募ったところ、映画でT-800を演じたシュワルツェネッガーが、作品のようにロボットを溶かしてはどうかと提案しました。映画の場面を現実の廃棄作業に結びつけた、強い宣伝効果も期待できる案でした。

ただし、ロボットを溶かす場所を見つけるのは簡単ではありませんでした。金属くずを溶かす電気アーク炉(電気の放電で高温をつくる炉)では、炉に入れる物の材質や安全性を確かめる必要があります。とくにロボットに搭載されたリチウムイオン電池は、加熱によって発火や爆発を起こすおそれがありました。

米国とメキシコの複数の鋳造工場は、電池による危険を理由に作業を引き受けませんでした。最終的に受け入れたのは、フィンランドのイマトラにある鋳造工場です。特殊な廃棄を実施するには、見た目のインパクトだけでなく、炉の設備や作業員の安全を確保できることが欠かせません。

電池を含む機器を高温処理する難しさ

リチウムイオン電池は、携帯電話や電気自動車などにも使われています。通常の状態では便利な電源ですが、強い衝撃や過熱によって内部で異常な反応が起きると、急激な発熱や火災につながる可能性があります。

そのため、電池を含む電子機器を処分するときは、一般の金属くずと同じ扱いにはできません。今回の作業でも、受け入れ先の確保そのものが大きな課題となりました。


工場に行く前に動きを訓練

ロボットは、初めて訪れる鋳造工場でいきなり炉に向かったわけではありません。フィギュアAIは米国の本社で、スタント俳優の動きを参考に作った訓練モデルを使い、ロボットが炉へ飛び込む動作を繰り返し練習させました。

実際に電気炉を使用できる時間は、24時間のうち6回の溶解サイクルに限られていました。各サイクルは約20分です。ロボットが現場で何度もやり直せる状況ではなかったため、事前に動作を身につけさせ、限られた機会で実行する必要がありました。

訓練では、建物の2階から1階に置いたエアバッグへ飛び降りる練習も行われました。ロボットは、そこで学んだ動作をもとに、現地の炉へ向かって飛び込んだとされています。

ここでいう「自ら飛び込む」は、ロボットが人間のような意識や生存本能を持ち、状況を理解して決断したという意味ではありません。人が設定した目的や学習させた動きを、機械がセンサーや制御装置を使って実行したということです。歩行ロボットが障害物を避ける場合と同じように、外からは自律的に見える動作でも、その範囲や条件は設計と訓練に左右されます。


溶けた金属は記念品に加工

フィギュアAIは、溶かしたロボットの金属を米国の本社に持ち帰り、数量限定の記念品に加工していると説明しました。廃棄物として処理するだけでなく、ロボットの世代交代を象徴する品として活用する考えです。

同社は、公開した動画がコンピューターグラフィックスや人工知能で生成した映像ではなく、実際のロボットが炉に入る場面を撮影したものだとしています。提案者のシュワルツェネッガーも、廃棄作業を記録した動画に登場しました。

旧型機を溶かすことには、部品を回収して再利用する方法とは違う意味があります。個々の部品を残さず処理できる一方、素材の再利用や安全な処理をどのように行うかは、廃棄の手順と管理にかかっています。今回、どのような部品を事前に取り外したのかなど、作業の詳細は記事で明らかにされていません。


「印象的」と「不気味」が交錯

動画を見た人たちの反応は分かれました。映画を現実に重ねた演出を「印象的だ」「宣伝として巧みだ」と評価する声がある一方、ロボットが自ら炉へ飛び込むように見えることに、不安や不気味さを感じる人もいました。

ロボットに人間らしい姿や動きが備わるほど、機械の行動を人間の意思になぞらえて受け止めやすくなります。しかし、見た目が人に似ていることと、意識や感情を持つことは別です。映像を読み解く際には、演出上の印象と、実際に確認できる技術上の事実を切り分ける必要があります。

一方で、企業がロボットの廃棄を動画として公開したことは、広報やマーケティングの面でも目を引きます。製品の登場を知らせるだけでなく、旧型機をどう処分するのかという、これまで表に出にくかった問題を多くの人に考えさせるきっかけになりました。


ロボットの普及で問われる「退役後」

工場や物流現場にロボットが増えれば、新型機への入れ替えや故障にともなう廃棄も増えていきます。ロボットは金属の骨格だけでなく、電池、電子回路、センサー、ソフトウェアなどを組み合わせた機器です。そのため、単に金属として溶かすだけでなく、危険物の処理や素材の回収、内部情報の保護を含めた方法を考える必要があります。

今回のような高温処理は、機体の形や一部の部品を残さない方法として注目を集めました。ただし、電池の発火リスクや設備への負担があるため、どのロボットにも簡単に適用できるわけではありません。解体して部品を再利用する方法と、情報保護を重視して機体を完全に処理する方法には、それぞれ利点と課題があります。

今後、企業にはロボットを導入するときだけでなく、役目を終えた後の扱いまで設計することが求められそうです。たとえば、交換しやすい電池や再利用可能な部品を設計段階から取り入れれば、廃棄時の危険やコストを抑えられる可能性があります。映画のような映像の背後には、機械の安全、資源の循環、企業秘密の保護という現実的な課題が浮かび上がっています。

この一件が示したのは、ロボットが人間のような意思を持つということではありません。ロボットが社会に広がるにつれ、製造だけでなく、運用と廃棄の責任も問われるようになっているということです。