公証役場で交わした「約束の証書」、しかし…

キム・ミンジョンさんと夫のパク・ジフンさんの結婚生活は、ジフンさんの不貞行為によって終わりを迎えようとしていました。ミンジョンさんは深く傷つきましたが、子供たちのためにせめて最後は泥沼の争いを避けようと、ジフンさんと「協議離婚」をすることに合意しました。

二人は財産分与についても話し合い、婚姻期間中にジフンさんの名義で購入した自宅マンションをミンジョンさんの所有にするという内容の合意書を作成しました。念には念を入れて、公証役場で「私書証書」としての認証も受けました。ミンジョンさんは、これで離婚後の生活基盤は守られたと確信していました。

しかし、事態は思わぬ方向に転がります。離婚の手続きを進める中で、子供の親権をめぐって二人の意見が真っ向から対立してしまったのです。結局、協議離婚は決裂。ミンジョンさんはジフンさんの不貞を理由に離婚訴訟を提起し、裁判所から離婚判決を勝ち取りました。ところが、ジフンさんは豹変します。「裁判で離婚したのだから、あの時の合意書は無効だ」と言い出し、マンションの名義変更を拒んだのです。

突きつけられた法的課題

今回のケースで焦点となるのは、「協議離婚を前提に作成された財産分与合意書が、裁判離婚になった場合でもそのまま有効か」という点です。ミンジョンさんは、公証を受けた合意書を根拠に、民事訴訟で所有権移転登記を請求できるのでしょうか。

韓国法が定める財産分与の原則

韓国の民法および判例では、離婚前の財産分与の合意について厳格な基準を設けています。

韓国大法院(最高裁判所)の判断基準財産分与に関する協議は、将来「協議離婚」することを前提とした条件付きの意思表示である。したがって、特別な事情がない限り、実際に協議離婚が成立した場合にのみ効力が発生する。

具体的には、以下のような状況では合意の効力が発生しないとされています:

  1. 協議離婚が成立せず、婚姻関係が継続した場合
  2. 一方が提起した訴訟によって「裁判上の離婚(和解、調停を含む)」に至った場合

つまり、協議離婚を目指して書かれた約束は、あくまで「協議離婚がスムーズに終わること」を条件としたボーナスのようなものであり、条件が満たされなければ白紙に戻ってしまうのです。

裁判所はどのように判断するか

韓国の裁判所は、協議離婚が成立しなかった場合、その合意は「条件の不成就」により失効したとみなします。大法院(2000年10月24日宣告 99ダ33458判決など)は、たとえ合意書が存在していても、裁判離婚になったのであれば、その内容をそのまま民事訴訟(契約不履行に基づく請求)で強制することはできないと明示しています。

ただし、その合意が全くの無駄になるわけではありません。家庭裁判所が財産分与の額や方法を決定する際、かつてそのような合意がなされたという事実は、民法第839条の2第2項が定める「その他一切の事情」の一つとして参酌(考慮)されることがあります。

ミンジョンさんのケースへの適用

ミンジョンさんの場合、残念ながらあの合意書を根拠に民事訴訟でマンションの名義変更を求めることはできません。裁判離婚という結果になった時点で、以前の合意は法的な拘束力を失ってしまったからです。

ジフンさんが「無効だ」と主張している法的根拠は、韓国の判例に照らせば正しいことになります。ミンジョンさんがマンションを手に入れるためには、民事裁判ではなく、離婚訴訟の手続きの一部として、あるいは別途、家庭裁判所に「財産分与の審判」を申し立てる必要があります。

結論:何に注意すべきか?

最終的に、ミンジョンさんは家庭裁判所での財産分与手続きを通じて、マンションの所有権を主張することになりました。裁判所は、かつてジフンさんが合意書を書いた経緯などを考慮し、ミンジョンさんに有利な判断を下す可能性が高いでしょう。

もし、あなたも同じような状況にあるなら、以下の2点に注意してください:

  • 協議離婚が裁判に発展したら、過去の合意はリセットされると考える: 「合意書があるから裁判でも勝てる」と過信せず、改めて家庭裁判所での主張を準備してください。
  • 財産分与の請求期限を守る: 裁判離婚の場合、財産分与の審判は離婚成立から2年以内に行わなければなりません。合意書の有効性を争っている間に期限を過ぎないよう、早めに専門家へ相談しましょう。