イーロン・マスク氏の元右腕が描く「脳と機械の融合」

イーロン・マスク氏と共にNeuralink(脳とコンピュータを直接つなぐ技術を開発する企業)を立ち上げたマックス・ホダック氏が、自身のスタートアップ「Science Corp」を通じて、これまでの常識を覆す新しい脳センサーのヒト臨床試験に向けた準備を整えています。このプロジェクトを率いるのは、イェール大学医学部脳神経外科の責任者であるムラト・ギュネル博士です。

Science Corpは2021年の設立以来、2億3000万ドル(約345億円)もの資金を調達しており、企業価値は15億ドルに達しています。彼らが目指すのは、単に脳の信号を読み取ることだけではありません。失われた視力を回復させたり、さらには人間が持っていない「新しい感覚」を追加したりすることまで視野に入れています。


「金属の針」から「生きた細胞」への転換

現在、多くの脳インターフェース技術は、金属製のプローブ(脳に刺して信号を読み取る細い針)や電極を使用しています。しかし、これには大きな弱点があります。

「金属の電極を脳に直接刺すと、時間の経過とともに脳組織が損傷し、デバイスの性能が低下してしまいます」とギュネル博士は警告しています。まるで精密な機械の中に無理やり釘を打ち込むようなダメージが、脳の中で起きてしまうのです。

そこでScience Corpが編み出したのが、「バイオハイブリッド」という手法です。これは、ラボで培養された本物のニューロン(神経細胞)と電子回路を組み合わせる技術です。これを「生きた橋」として使うことで、脳とコンピュータをより自然に、そして安全に接続することを目指しています。


2027年の臨床試験:安全性を最優先に

最初のステップとして、チームはラボ培養の細胞を含まない「最新型センサー」そのものをヒトの脳に設置する試験を計画しています。このセンサーは、わずかエンドウ豆ほどのサイズに520個もの記録電極が詰め込まれた超高精度なものです。

  • 脳を傷つけない設置法: Neuralinkのように脳組織に直接突き刺すのではなく、頭蓋骨の下にある脳の表面に「置く」形を採用します。
  • 対象となる患者: すでに脳出血などで頭蓋骨を一時的に取り除く手術(脳の腫れを抑えるために窓を作るような手術)が必要な患者を候補としています。
  • 期待される効果: 損傷した細胞の治癒を促す電気刺激の付与や、脳腫瘍患者のてんかん発作を事前に警告するシステムの開発などが期待されています。

ギュネル博士は、この技術がパーキンソン病(体が震えたり動きが不自由になったりする進行性の病気)の治療にも革命をもたらすと信じています。現在の治療法では進行を止めることが難しいですが、新しい細胞を脳に送り込み、電子回路で保護することができれば、病気の進行そのものを食い止められる可能性があるからです。試験の開始は2027年頃を見込んでいます。