1――ひとりの参加者が越えた線
ソウルの官庁街で開かれた集会に、キム・ソヨンは友人と参加していました。参加者が掲げるプラカードの向こうには、警察が設けた柵とテープが伸びています。主催者からは、線の内側で集会を続けるよう案内されていました。
集会が熱を帯び、ソヨンは前へ進んで警察の設けた線を越えます。警察官は警告しましたが、彼女は正当な理由を示さないまま、しばらくその場所にとどまりました。後日、ソヨンは集会・デモ法違反で処罰されることになります。「集会の自由を行使しただけなのに、警察の線を越えたことで罰を受けるのは憲法に反するのではないか」。その疑問は、集会に参加した人なら誰もが抱き得るものです。
2――法律が定める線と、処罰の境目
問題は、警察が集会の周囲に設ける「秩序維持線」が憲法上許されるのか、そして、その線を越えた参加者を刑事処罰する規定が明確で妥当なのか、ということです。
より具体的には、警察が線をどこまで広く設定できるのか、その線を越えた場合にどのような条件で処罰が成立するのかが問われます。
3――韓国法が定めること
韓国の「集会及び示威に関する法律」(以下「集会・デモ法」)は、適法な集会・デモを保障するとともに、公共の秩序との調和を図ることを目的としています。秩序維持線も、参加者の表現を封じるためのものではなく、集会を守りながら周囲の秩序を保つための仕組みとして定められています。
集会・デモ法第13条第1項は、届け出を受けた所轄警察署長が、集会・デモの保護と公共の秩序維持のために必要と認める場合、「最小限の範囲」を定めて秩序維持線を設けることができるとしています。
法律上の秩序維持線とは、集会の場所や行進経路を一定の範囲に区切る帯、柵、車線などの境界標識です。重要なのは、警察に無制限の線引きを認めているわけではない点です。
集会・デモ法第24条第3号は、警察官の警告にもかかわらず、正当な理由なく相当な時間にわたって秩序維持線を侵害したり、線を壊す、隠す、移動させる、取り除くなどしてその機能を損なったりした者に、6か月以下の懲役または50万ウォン以下の罰金、拘留もしくは科料を科すと定めています。
したがって、線を越えたという事実だけで、ただちにこの刑罰が成立するわけではありません。少なくとも、次の点が問題になります。
- 線が集会・デモの保護や公共の秩序維持のために必要な範囲で設けられたか。
- 線の設定が主催者または連絡責任者に告知されていたか。
- 参加者に警察官の警告があったか。
- 正当な理由がないまま、相当な時間にわたって侵害したといえるか。
線の設定は原則として書面で告知されます。現場で新たに設定または変更する場合には、その場にいる警察官が口頭で知らせることも認められています。警告を処罰の要件とすることで、参加者が線の存在やその範囲を知る機会も確保されています。
4――韓国の裁判所が重視すること
韓国の憲法裁判所は、2015헌바218決定において、秩序維持線の設定と違反者への処罰を定める規定は、憲法に反しないと判断しました。
その理由の出発点には、集会の自由の重要性があります。集会は、とりわけ通常の政治過程では声が届きにくい人々にも意見を表明する場を与えるもので、自由民主主義の重要な基盤です。一方で、集会は多くの人の行動を伴うため、通行や交通、周囲の人々の安全、物理的な衝突などに影響を及ぼす場合があります。裁判所は、集会の自由と公共の秩序を両立させる制度が必要だと考えました。
裁判所の考え方では、秩序維持線は届け出られた集会・デモの外周に設けられ、集会を保護し秩序を保つための範囲にとどまるべきです。「最小限の範囲」とは、集会の自由や参加者の安全を守りつつ、通行・交通の円滑化や衝突の防止などに必要な限度で、できるだけ狭く設定された範囲を意味すると解釈されます。
また、集会の具体的な進行や現場の状況は事前にすべて予測できるとは限りません。そのため、法律があらゆる場面について線の範囲を数値で一律に定めるのは現実的ではなく、警察には状況に応じて設定する余地があるとされました。ただし、裁量があるからといって、集会を実質的に妨げるほど広い線を自由に引けるわけではありません。
裁判所は、告知と警告の仕組みも重視しました。線の範囲を知らせ、警察官が警告した後でなければ処罰されないことから、参加者はどの行為が問題となるかを予測できると考えたのです。こうした理由から、「最小限の範囲」という文言は不明確すぎず、罪刑法定主義に含まれる明確性の原則にも反しないと判断されました。
5――ソヨンの行為に当てはめる
この判断は、警察が線を設ければ、どのような線でも適法になるという意味ではありません。ソヨンのケースでは、次の順に検討する必要があります。
- 線が必要な場所に設けられていたか。 集会の場所や行進経路の外側で、参加者の安全、一般の通行、交通、衝突の防止などに必要な範囲だったかが問われます。集会の表現活動そのものを抑え込むための線であれば、正当化は難しくなります。
- 線の範囲が最小限だったか。 集会の目的や主催者、場所の広さ、設定方法などを踏まえ、集会の保護と秩序維持に必要な限度だったかを確かめます。法律は一律の距離を定めていないため、具体的な現場状況が重要です。
- ソヨンに線と警告が伝わっていたか。 線が告知されていたか、警察官が侵害をやめるよう明確に警告したかが処罰の前提になります。警告がなかった場合には、刑罰の要件を満たすかが問題になります。
- 侵害に正当な理由がなく、相当な時間続いたか。 一瞬線を越えたことと、警告後も正当な理由なく相当時間とどまったことは同じではありません。処罰規定は、単なる接触や越境だけでなく、法律に定める条件を求めています。
ソヨンの想定では、線は集会の外周に設けられ、その範囲も必要な限度にとどまっていました。彼女はその場で警告を受けたのに、正当な理由なく線の外側に相当時間とどまっています。こうした事実が証拠によって認定されるなら、処罰の要件を満たす可能性が高く、規定自体が違憲だという主張だけで処罰を覆すのは難しいでしょう。
反対に、線が過度に広く、集会の実施を妨げるような位置に設定されていた場合や、線や警告が十分に知らされていなかった場合、越境が短時間で正当な理由を伴っていた場合には、個別の処罰が適法かどうかを改めて争う余地があります。規定が合憲であることと、現場での警察の対応や個別の有罪判決が常に適法であることは、別の問題です。
6――結論:ソヨンに何が起き、読者は何をすべきか
この想定では、ソヨンは憲法上の集会の自由を主張しました。しかし、集会の自由は重要であっても、適法に設定された秩序維持線を、警告後に正当な理由なく相当時間にわたり侵害することまで無条件に認めるものではありません。韓国憲法裁判所が規定そのものを合憲とした以上、彼女は「線を越えた処罰規定は憲法違反だ」という理由だけで責任を免れることはできず、処罰が維持される可能性が高いと考えられます。
ただし、最終的な結論は、線が本当に必要最小限だったか、警告があったか、越境の時間や理由はどうだったかによって変わります。同じ集会参加者でも、現場の事実関係次第で法的評価は異なり得ます。
同じような状況に直面したら、次の点を意識してください。
- 線の位置と警告の状況を記録する。 写真、動画、周囲の証言など、設定範囲や警告の有無が分かる資料をできるだけ保存しましょう。
- 警告を受けたら、理由を確認して冷静に行動する。 線の設定に疑問があっても、現場での対立を深めず、後から適法性を争うための記録を残すことが大切です。
- 処罰を受けた場合は、具体的な要件を確認する。 線の必要性・範囲、告知と警告、侵害の時間、正当な理由の有無を整理し、韓国の弁護士に早めに相談してください。



















