1――人間の物語:返済を待つ金美奈
金美奈は、韓国で学校を運営する学校法人「青海学園」に資金を貸していました。返済が滞り、話し合いの末、学園側は保有する土地を売って返済資金に充てることを決めます。買い手も見つかり、契約の準備は整いました。
ところが、その土地は学校法人の運営を支える「基本財産」に当たるとして、売却には所轄庁の許可が必要だと分かります。申請の審査が続く間、金は返済を受けられません。学園の理事長、朴俊昊は「学校を支える資産を守るための手続だ」と説明しますが、金には、債権の回収が行政の判断に左右され、裁判で救済を求める権利まで遅らされているように感じられました。
2――この物語が問う法律問題
学校法人が基本財産を処分する際に所轄庁の許可を求める韓国の制度は、学校法人の財産権を不当に制限するのでしょうか。また、許可を待つことが、債権者などの「迅速な裁判を受ける権利」を侵害するのでしょうか。
3――韓国法の定め
韓国の私立学校法第28条は、学校法人が基本財産を処分したり、その利用方法を変えたりする場合などに、所轄庁の許可を受けるよう定めています。ここでいう基本財産は、学校法人の財政的な土台となり、学校運営を支える資産です。
私立学校法第28条の要点:学校法人が基本財産を売却、贈与、交換し、用途を変更し、担保に供する場合などには、所轄庁の許可が必要となる。
この制度は、学校法人の資産を自由に動かせなくすること自体を目的とするものではありません。教育を継続するために必要な財産が失われ、法人の運営基盤が損なわれるのを防ぐことが狙いです。処分の対象が基本財産に当たるかどうか、またどの手続が必要かは、個別の事情に即して確認しなければなりません。
制度を考えるうえで重要なのは、次の点です。
- 対象となる行為:売却、贈与、交換、用途変更、担保設定のほか、義務を負うことや権利を放棄することも、許可の対象となり得ます。
- 審査を行う機関:学校法人の資産や財政状態を把握している所轄庁が、基本財産を処分してよいか判断します。
- 債権回収との関係:基本財産以外の財産を対象とする強制執行や競売の手続があり、そこから債権を回収できない場合などには、別の救済手段が問題となることもあります。
- 取引の予測可能性:学校法人の取引相手が、許可の要否や取引の見通しを確認できる制度的な仕組みも考慮されます。
4――韓国の裁判所はどう考えるか
韓国憲法裁判所は、2016年の決定で、基本財産の売却に所轄庁の許可を求める規定は、財産権や迅速な裁判を受ける権利を過度に制限しないと判断しました。
裁判所が重視したのは、学校法人の基本財産が単なる資産ではなく、教育を続けるための物的基盤でもあるという点です。財産が処分され、法人の運営基盤が失われれば、学校の継続にも影響しかねません。そのため、財政状態をよく把握している所轄庁が処分を審査する仕組みには、正当な公益目的があり、目的を達成するうえでも適切だとされました。
裁判所の考え方:教育の基盤となる基本財産の散逸を防ぐ公益は重要であり、所轄庁が売却の可否を判断する仕組みは、その目的に照らして必要な範囲を超えるものではない。
裁判所は、規制の負担だけを切り離して評価したわけではありません。基本財産以外の財産を対象とする執行手続や、そこで債権を回収できない場合の別の救済手段、取引相手の予測可能性を支える仕組みにも目を向けました。こうした事情を総合し、許可制度による制約が行き過ぎとはいえないと結論づけています。
5――金美奈の状況に当てはめる
金の疑問に、裁判所の考え方を順に当てはめると、次のようになります。
- 売却する土地が基本財産かを確認する。 土地が学校法人の基本財産に該当するなら、売却には原則として所轄庁の許可が必要です。売買契約の準備が整ったことだけで、許可の要件がなくなるわけではありません。
- 許可制度の目的を確かめる。 学園の土地が処分されれば、学校運営を支える財産が失われるおそれがあります。教育を継続する基盤を守るという目的は、裁判所が重視した公益に当たります。
- 規制の手段が目的に見合うかを検討する。 学園の財政状態を把握する所轄庁が売却を審査することは、資産の散逸を防ぐための合理的な手段と評価されます。裁判所は、取引の予測可能性を保つ仕組みや、基本財産以外の財産を対象とする回収手続なども考慮し、規制が過度とはいえないとしました。
- 迅速な裁判を受ける権利との関係を考える。 許可を待つことで債権回収が遅れる可能性はあります。しかし、裁判所は、基本財産を守る公益の重要性と、所轄庁による判断の必要性を認め、この許可制度そのものが迅速な裁判を受ける権利を侵害するとは判断しませんでした。
したがって、金が「許可を要する制度そのものは違憲だ」と主張しても、憲法裁判所の示した考え方のもとでは、その主張が認められる可能性は低いでしょう。ただし、これは所轄庁がどのような判断をしてもよいという意味ではありません。個別の売却申請の審査や債権回収の見通しは、制度自体の合憲性とは別に検討する必要があります。
6――結論:何が起きたのか、どう備えるべきか
金の訴えは、学校法人の基本財産を守る許可制度そのものが財産権や迅速な裁判を受ける権利を侵害する、という点では認められませんでした。韓国憲法裁判所は、教育の基盤を保全する公益が大きく、所轄庁による審査も目的達成に必要な範囲内だと判断したからです。青海学園は許可を得るまで土地を売却できず、金も、許可を待つことだけを理由に制度の違憲性を訴えて直ちに回収できるわけではありません。
同じような立場にある人は、次の点を意識してください。
- 資産の性質を早めに確認する:対象が基本財産かどうか、学校法人の資料や所轄庁への照会などで確かめましょう。
- 許可の進捗と代替手段を並行して調べる:売却の許可を待つだけでなく、基本財産以外の資産を対象とする執行など、利用できる回収方法を専門家と検討してください。
- 契約や貸付けの段階で条件を整える:学校法人との取引では、許可が必要となる可能性や、許可が得られない場合の扱いを契約上明確にしておくことが重要です。



















